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【自治体DX事例】外部DX人材を機能させる秘訣!広島県坂町CIO補佐官に学ぶ「伴走型DX」と変革のポイント
分野:
行政運営
発注機関: 安芸郡坂町役場

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序章:小規模自治体の壁。人材不足をいかに乗り越えたか

「DX推進が必要だが、専門知識を持つ職員がいない」「外部人材を登用したいが、採用ノウハウも予算も限られている」。

人口1万人強の小規模自治体である広島県坂町(さかちょう)にとって、これは長年つきまとう深刻な課題でした。
令和三年度からDXへの本格的な取り組みがスタートしたものの、その壁は非常に厚いものだったのです。
坂町は、この難題を「自前での解決」にこだわらず、県と市町の広域連携スキーム「DXShip(デジシップ)ひろしま」を通じて突破しました。

本稿では、この外部人材をどのように庁内に機能させ、成果へと結びつけたかに焦点を当て、坂町のCIO補佐官として変革をリードする桃井誠氏へのインタビューをもとに、自治体が最も知りたいノウハウを深掘りします。

第1章:DX体制構築の変遷と「DXShip」の具体的な仕組み

坂町は、令和三年度から総務省より人事交流を通じて、情報政策監を受け入れ、町公式LINEの開設、保健福祉の相談予約サービスやキャッシュレス対応、高齢者向けのスマホ教室など、住民向けのフロントヤード施策に積極的に取り組んできました。しかし、庁内の持続可能な行財政に向けたDX推進、特にガバナンス構築と戦略策定においては、外部の知見が不可欠だったのです。

小規模自治体なので、リードできる人が一人いても、実行するための知識やリソースが不足する。そこをどうにかしないといけませんでした

と桃井氏は当時の状況を振り返ります。

この課題を解決するために機能したのが、広島県と市町が連携して取り組む「DXShip(デジシップ)ひろしま」の枠組みです。これは、外部人材紹介サイトを活用した公募によりDX専門人材を共通人材として県が採用し、人材プールを構築する仕組みになっています。そして、人材獲得が困難な市町村に対し、CIO補佐官等として派遣するという「プール&派遣」モデルです。桃井氏は、この枠組みを通じて令和6年11月に坂町に着任されました。
外部人材のジョインは、体制そのものを一気に変革させました。今年(2025年)4月には「デジタル改革推進室」が発足し、桃井氏はCIO補佐官として、戦略の見直し、ワーキンググループの総括、PMOといった中核を担っています。

着任後、桃井氏が最初に取り組んだのは、客観的な現状把握でした。NECネッツエスアイ株式会社に依頼した「自治体DX診断」のデータを用いて町長、全課長と意見交換を実施し、情緒的な議論ではなく、客観的指標を元に課題特定を進めていったのです。

第2章:外部人材を現場で機能させる秘訣―「役割の明確化」と「伴走」の徹底

外部人材を単に登用しただけでは、その知識は庁内で孤立してしまいます。坂町で桃井氏が最大限機能できた背景には、徹底した「役割の明確化」と「伴走型」の活動がありました。

桃井氏が着任時にまず行ったのは、自身の役割(ジョブディスクリプション)の明確な宣言です。

自分が何をやる人なのかを具体的にまとめて、幹部職員全員に宣言し共有しました。上層部に対しては経営戦略の支援、現場に対しては業務の支援という形で、両者にアプローチしています

この宣言によって、上層部からは「経営戦略・町政を一緒に進めるパートナー」として、現場からは「技術的な知見を持って業務を助けてくれる伴走者」として、早期に信頼関係を築くことができました。特に小規模自治体では、首長や幹部と現場の間に立ち、DXの目的(何でやるのか)を構想段階から一貫して共有していくことが、成功の鍵となります。

また、課題の本質を見抜く際は、客観的なデータだけでなく、日々の立ち話や定性的な会話を通じて信頼関係から情報を吸い上げることも重視しました。

第3章:視点を変える教育戦略―「垂直型WG」と成功体験のコーディネート

研修や座学で知識を学んでも、「それを自分の課の業務にどう活かせばいいか分からない」という課題は、多くの自治体で共通しています。坂町では、この課題に対し「垂直型ワーキンググループ」という実践的な手法を導入しました。

桃井氏は、各課(全27係)を回り、現場の困りごとをヒアリングし、行政の皆様が苦手な自分たちの業務状況をホワイトボードで図に書いて客観的に可視化する作業から伴走していくこととしました。そして、知識を伝えるだけでなく、「研修という形で、自分たちで持っているデータや情報を使って、評価して観察する体験」を提供しているところです。

その具体的な事例が、地域福祉計画の改定業務です。4年に一度の計画改定における住民意見の振り返りにおいて、過去の住民からの声(議事録)を生成AIにインプットし、施策に対する要望を表形式で整理するワークショップを実施しました。

小さな成功体験をコーディネートすると、他にもできるんじゃないかって思ってくれる。この体験を通じて、職員の士気と自走への意欲を高めることができました。これは補助輪を外していくような感覚です

と桃井氏は効果を説明します。

この垂直型WGは、小規模自治体だからこそ、全係を網羅的にフォローし、きめ細やかなサポートが可能になった成功事例です。

第4章:失敗しないDX―フロントとバックヤードの具体施策

外部人材がもたらした知見は、フロントヤードとバックヤードの両方で具体的な成果に結びついています。

「温かいDX」:窓口利用体験調査に基づくリソース再配分

坂町のDX思想の根底には「誰一人取り残さない、温かいDX」があります。町長が「全てをデジタル化するのではなく、若い人たちにはデジタルの恩恵で利便性を高め、浮いたリソースを高齢者や不慣れな層への丁寧な対面サービスに振り向ける」という基本戦略を持っていたためです。

この戦略に基づき、「書かない窓口」を導入する前に「窓口利用体験調査」を実施しました。転入や死亡届などの手続きのペルソナを設定し、職員がシミュレーションして課題を見える化しました。その結果、簡易な手続きはデジタルで効率化し、福祉相談や子育て支援などコミュニケーションが不可欠な相談業務には、より時間をかけて対応するという、デジタルとアナログの最適なバランスを見出したのです。

バックヤード:低価格SaaSと実績による合意形成

バックヤード業務の効率化においては、「導入したものの使われない」という失敗を避けるため、「価格がある程度抑えられているSaaS」に特化し、確実な利用を見越したツール選定を徹底しました。
ツール導入の鍵は、予算化前の「実証実験(POC)」です。例えば、AI議事録ツールについては、実証実験で導入前後の工程を可視化し、削減効果を定量的に見出すことで、財政当局とも連携し、予算化に成功しました。
その結果は顕著です。

AI議事録ツールは、月130時間のライセンスに対して常時8割(約100時間超)が利用されているという実績を上げています。これは、職員自身が「自分たちでも使える」「効果がある」と確信した上で導入した証拠です。

また、桃井氏はサービス選定において、外部の人脈も活かし、「自分がどういうDXをしたいのか、という本心の部分も知ってもらった上で、(外部の有識者から)情報をもらえている」ため、庁内のニーズとツールにミスマッチが起こりにくいという点も、成功の要因として挙げられます。

終章:外部人材を活用した「自走化」への道筋

広島県坂町の事例は、外部DX人材の活用が、単なる「人手の補充」ではなく、組織文化と職員の視点を変革する起爆剤となり得ることを証明しました。

「DXShip(デジシップ)ひろしま」という広域連携の「採り方」は、人材リソースが限られる自治体にとって非常に現実的で強力な解決策です。

そして、桃井氏が実践する「役割の明確化」「体験型教育」「失敗しないためのプロセス」といった伴走型の活かし方は、外部人材の専門性を、確実に庁内の成果と次なる自走力へとつなげる道筋を示しています。