自治体DXの記事・事例

公共事業モデルを転換して人口減少に持続的に立ち向かう:足利市のDX戦略の本質
分野:
行政運営
窓口・手続き業務
学校・教育
発注機関: 足利市役所

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地方自治体、特に中小規模の市町村がDXを進めようとすると、必ずぶつかる壁があります。DX体制も予算も限られていて、デジタル化も遅れている。この三重苦は、一つの自治体だけでどうにかできる問題ではなく、地方共通のスタート地点です。

しかし、この厳しい状況だからこそ、IT技術を入れるだけの表面的な「D(デジタル)」で終わらせず、業務の根っこから変える「X(トランスフォーメーション)」に本気で取り組む自治体があります。

足利市のDXは、単に「行政の効率を上げるだけのもの」ではなく、地域が持続可能であり続けるための「公共事業モデルの変革」として位置づけています。

DXのコンセプト:なぜ「公共事業モデルの転換」が必須なのか

都市部の自治体や大企業と同じだけのリソースを確保するのは、現実的ではありません。そう認識したうえで、足利市の徳永CIO補佐官はこう強調しています。

本当に大事なのはDではなくXで、公共事業モデルを一緒に作っていける力があるかどうか


つまり、自治体が自前のリソースと予算だけでフルサービスを提供し続けるという従来のやり方は、人口減少と財政難の時代にはもう続けられない、という危機感があるわけです。

この難しい状況を打開するため、足利市が取っている戦略ははっきりしています。
限られた予算を各自治体がバラバラに使うのではなく、「共通領域で予算を統合」して、さらに「市民や地域、他社と一緒に運営」するオープンイノベーションを必須戦略にすることです。

自治体が単独でシステムを作って運用するのではなく、外部の知恵や資本を呼び込んで、お互いにメリットのある関係を築く新しい仕組みを設計する。このアプローチは、新規システムの予算が取れないという構造的な問題を、協業という形で根本から解決しようとするものです。この発想こそが、行政サービスを持続可能にする、本当の意味でのトランスフォーメーションの源です。


IT投資の制約を打破するアイディアと公共事業のモデル転換

この変革の考え方は、市民サービスと教育分野で具体的な成果を生んでいます。

1. 窓口業務DX:「行かなくていい」への選択と集中

足利市は、市民の窓口業務に対する本当の満足度を高めるため、最終目標を「行きたくなる」市役所と定義して、まず最優先で「行かなくていい」の早期実現に力を入れています。

ここで注目すべきなのは、新しいシステムに投資するのではなく、業務の運用方法そのものを変える施策です。

年間18万件の証明書発行業務のうち、86%はコンビニやオンラインなど来庁不要で済ませられるにも関わらず、実際来庁している人は年間12万件(78%)にもなります。この状況に対して、市はシステムを新しく入れるのではなく、マイナンバーカードの保有率と認知度を上げることを前提に「コンビニ交付手数料10円キャンペーン」を始めました。これで年間10万件以上の窓口業務を無人化・自動化に誘導して、業務変革を実現しようとしています。

さらに、来庁者データをもとに、窓口受付時間の短縮を実行しました。

利用者の9割以上が影響を受けない時間帯に集中している事実を確認して、毎日1時間15分の窓口受付時間の短縮を実現しました。足利市CIO補佐官は業務変革(X)の本質についてこう語っています。

DXと言いながら、IT投資をしなくても業務変革が一気にできていく。今日できることはすぐに実行すべきです。

2. 教育DX:産学官連携でリソースを確保

教育DXでも、足利市はツールを入れるだけではない変革を目指しました。
財源がない中で、合同会社デロイト トーマツ(足利市教育DX戦略アドバイザーである出水ディレクター、片貝マネジャー)と連携して、専門性とDXリソースを提供してもらう仕組みを構築しました。

また、地元の足利大学の情報系学生を「教育DX支援員(会計年度任用職員)」として雇い、データ活用などのITリソースを確保しています。これで学生は世界有数のコンサルタントの指導のもと、教室では学べないDXの実践経験を得られて、市は低コストで教育委員会のデジタル化体制を強化できています。

足利市CIO補佐官は、「この教育DXの取り組みを持続可能にするには、足利市単独ではなく、全国の自治体と連携してスケールメリットを生かす新たな公共事業モデルに昇華させる必要がある」と述べています。

共通の課題を持つ自治体が集まることで、年間数億円の財源を確保して、大手企業やプロジェクトマネージャーを抱えて継続的に発展させる、共同利用型の公共事業モデルの創出を目指しています。

組織を動かす力:最重要資本は「人」

リソースが限られる地方自治体にとって、一番大事な資本は「人」です。足利市のDX推進における人材育成は、ITスキルを教えるのではなく、業務変革を起こすための「DX研修」に焦点を当てています。

足利市CIO補佐官は、職員に対して「生産性を2倍ではなく3倍。今日3人でやってるところを1人でやるという未来を作っていく」と、現状の延長線上ではない未来を強く示しています。財政難や多忙を理由にせず、自分たちの創意工夫と行動力で課題解決に挑むマインドセットの転換こそが、この変革の根幹です。

挑戦的な目標を掲げながらも、市民や地域、そして外部のIT企業と連携することで、単独では実現できなかった成果を目の当たりにできることが、職員の「足利市をより良くできるという実感」というモチベーションの源になっていると捉えられています。

挑戦や変革を実行する上で、持たざる者である地方の中小自治体にとって、「人」が創意工夫して、諦めない心で、絶対にやり切る行動力こそが未来を切り開いていく最も重要な資本だというメッセージは、足利市のDX哲学を最もよく表しています。

結び:持続可能な社会システムへの挑戦

足利市のDXは、単なる一自治体の取り組みに留まらず、日本中の地方が抱える共通課題を解決して、国力の維持に貢献するという大きな目標を見据えています。

この変革の哲学は、すべての自治体職員に対して、制約を言い訳にせず、アイデアと行動力で業務と社会のあり方を根本から変えられるという希望と、実践的なヒントを提供します。また、自治体との協業を模索する民間企業にとっては、単なる製品販売ではなく、「新たな公共事業モデルを一緒に作っていく」という新しい市場開拓の可能性を明確に示しています。

この哲学に基づいて、足利市が具体的に水道業務という共通業務で、どう革新的なモデルを構築したのか。その詳しい事例は、次の記事で深掘りします。